酢酸エチルとは?その性質や反応について解説

酢酸エチルとは?その性質や反応について解説

酢酸エチルは日常生活ではあまり聞きなれない有機化合物ですが、実は身近なものに広く使用されている物質です。しかし、酢酸エチルは有用性が高いのと同時に「毒物及び劇物取締法」で医薬用外劇物に指定されており、取り扱いに注意が必要です。ここでは、酢酸エチルの性質や合成方法、特徴的な反応、危険性や有用性などについて解説します。

酢酸エチルとは

酢酸エチルとは、別名「エチルアセテート」とも呼ばれる低分子のカルボン酸エステルで、酢酸とエタノールを脱水縮合して合成されています。
有機溶媒や塗料、接着剤、除光液、食品添加物(香料)など幅広く使用されており、とても用途の広い有機化合物です。

酢酸エチルの特徴

酢酸エチルの特徴

酢酸エチルにはどのような特徴があるのでしょうか。ここでは、引火点や特徴的な芳香、比重や水溶性などについて解説します。

引火点が低い

酢酸エチルの引火点は「マイナス4℃」で引火性がとても高い物質なので、取り扱う際には、高温になるものや火花・裸火などの着火源からは遠ざけるようにしましょう。
酢酸エチルへの引火による火災の消火には、水噴霧、二酸化炭素、粉末消火剤、耐アルコール性消火剤、砂などの使用が適切で、棒状注水による消火は推奨されていません。


保管に際しても、以下のような注意が必要です。

  • 保管場所は壁、柱、床を耐火構造とし、はりや屋根を不燃材質で作る
  • 電気設備は防爆型のものを使用し、静電気放電の予防措置を施す
  • 高温にならないように温度管理する
  • 直射日光があたらないようにする
  • 施錠できる場所で保管する

果実のような匂い

酢酸エチルは揮発性の液体でパイナップルのような果実臭があり、実際にパイナップルやバナナなどの天然の果実油にも含まれています。また、高濃度になると接着剤や除光液のような刺激臭がします。
日本酒やワインにも含まれていますが、適切に管理されていないと味を落とす原因になるともいわれています。

水より軽い(液比重が1より小さい)

酢酸エチルの液比重は20℃で「0.898g~0.906g/cm3」と、水より軽い液体です。
火災になったときの消火方法として注水消火が推奨されていないのは、水の上に酢酸エチルが拡散して火災がさらに広がる恐れがあるためです。

水にわずかに溶ける(区分は非水溶性)

酢酸エチルは極性のある物質ですが水には溶けにくく、25℃の環境下で10体積%ほど溶解して温度が低いほど増えます。水への溶解度については、約8%(20℃)の水溶性があります。
酸化エチルに対して、水は最大で3重量%ほど溶解します。極性化合物であれば、同じ極性のある溶媒である水には溶けやすいはずですが、酢酸エチルはなぜ水に溶けにくいのでしょうか。
これは、酢酸エチルを構成する分子に水に溶けるだけの十分な極性がないからです。
酢酸エチルは、アルキル基(メチル基、エチル基)とエステル基で構成されています。エステル基には極性がありますが、その両端は疎水基であるアルキル基に挟まれているため、分子全体としては疎水性を示します。
また、有機溶媒であるエタノールやエチルエーテル、アセトン、ベンゼンには非常によく混和します。

酢酸エチルの反応

酢酸エチルの反応

酢酸エチルは、脱水縮合により酢酸とエタノールの混合物から水がとれることで生成されます。また、酢酸エチルと水が反応することで、加水分解によって酢酸とエタノールに分離します。

この二つの反応は可逆反応であり、エステルの生成と加水分解は平衡反応となります。
また、上記の反応をアルカリ溶液中で行うことで、けん化によって加水分解のみを進行させることができます。

酢酸エチルの合成方法

酢酸エチルの合成方法

酢酸エチルの合成方法には、どのようなものがあるのでしょうか。工業的な合成方法として、3つの代表的な方法をそれぞれ紹介します。

エステル化

1つ目の合成方法は「エステル化反応」です。

1895年に、エミール・フィッシャーとアルトゥル・スペイアによって報告されたことから、フィッシャーエステル合成反応、またはフィッシャー・スペイアエステル合成反応ともいいます。
酢酸とエタノールの混合液を加熱することで脱水縮合させ、生成するエステルを蒸留で取り出すことで効率よく合成する方法です。しかし、酢酸とエタノールを混合しただけでは加水分解と脱水縮合がそれぞれに行われるため、平衡状態となってしまいます。
このままではエステル化反応が完結しないため、収率を改善するために以下のような工夫をすることで、反応をエステル化に傾けることができます。

  • アルコールを過剰量用いる
  • 濃硫酸の脱水作用を利用して、生成する水を反応系外に除外する

ティシチェンコ反応

2つ目の合成方法は、「ティシチェンコ反応」です。
ティシチェンコ反応は無水条件でアルコキシドの触媒作用により、2分子のアセトアルデヒドを不均化させることで、エステルを得る方法です。1906年、V. ティシチェンコにより最初に報告されました。
触媒としては、アルミニウムアルコキシドやナトリウムアルコキシドが使用されます。
エタノールを使用しない合成方法なので、エタノールに対して課税がある国で選択されており、日本では主流の合成方法です。

エチレンと酢酸からの直接合成

3つ目の合成方法は「エチレンと酢酸からの直接合成」です。
直接合成については、昭和電工がシリカ担持ヘテロポリ酸触媒によるエチレンと酢酸からの合成法を開発しています。本プロセスでは原料価格に応じてエチレンの代わりにエタノールを用いることもでき、第56回日本化学会化学技術賞を受賞しました。
同社の大分コンビナートでは新製法による酢酸エチル生産設備が新設され、2014年6月に稼働を開始しています。

酢酸エチルの加水分解

酢酸エチルの加水分解

酢酸エチルの合成では、酢酸とエタノールの混合液に濃硫酸を加え、加熱することでエステル化する方法を紹介しました。しかし、この反応は可逆反応で、エステルから酢酸、エタノールに加水分解することもできます。
エステル化する場合は、濃硫酸で水を除去してエステル側へ反応を傾けましたが、希硫酸や希塩酸を触媒として使用することで、酸とアルコール側へ反応を傾けることができます。
また、酸触媒存在下での加水分解とは別に、塩基触媒下での加水分解のことを「けん化」といいます。なお、塩基触媒環境下では加水分解しか起こりません。

酢酸エチルの主な用途

酢酸エチルの主な用途

酢酸エチルの用途には以下のようなものがあります。

  • シンナー
  • ラッカーなど、塗料の溶剤
  • マニキュアの除光液
  • エッセンスなど食品添加物の成分として使用
  • 発酵の際に生成したものを、日本酒に香気成分として使用
  • 抽出溶媒あるいはクロマトグラフィー法の展開溶媒(ヘキサンとの混合溶媒としての使用が主)
  • 昆虫の標本を作製する際に防腐効果のある殺虫剤として使用

なお、標本の防腐剤として使う際には、色彩が鮮やかな甲虫や甲虫以外の虫に使用すると変色を招く可能性があるため、現在では亜硫酸ガスや冷凍庫を使う殺虫法と併用されることが多くなっています。

酢酸エチルの毒性

酢酸エチルの毒性

これまで、酢酸エチルの有用性について紹介してきましたが、酢酸エチルは「毒物及び劇物取締法」で医薬用外劇物に指定されている物質です。毒性があるので使用はもちろん保管についても対策を施し、注意して取り扱いましょう。
酢酸エチルを高濃度で摂取すると、目、鼻、のどに軽度の刺激、無気力感、眠気、視神経障害、意識喪失、肺水腫(肺に液体がたまる病気)などの症状が出ることがあります。
また、気体を吸い込むとめまいなどを起こす場合があるので、こぼした場合には吸引しないように注意し、有機ガス用の防毒マスクなどを装着してから処理しましょう。

まとめ

酢酸エチルは接着剤やインクの溶剤、塗料と塗料の溶剤、食品添加物の成分としてなど身近なものにも使われている有機化合物です。
酢酸エチルは3つの代表的な合成方法で製造されており、工業用途としての使用も多い物質ですが、高濃度摂取や気体の吸引などによって体に悪影響を及ぼすものでもあります。
酢酸エチルの危険性を正しく理解し、取り扱い方に注意しながら使用しましょう。